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高松高等裁判所 昭和45年(ラ)16号 決定

抗告人 帝国産業株式会社

相手方 岩佐良雄

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す、相手方を破産者とする。」との裁判を求めるというにあり、その理由の要旨は次のとおりである。

一  相手方側から抗告人に差し入れられた本件債務支払保証書(甲第一号証)が、かりに岩佐物産株式会社の八幡浜出張所員であつた宮崎貞二および相手方の妻である岩佐トシ子によつて現実に作成されたものとしても、右両名の地位、相手方との身分関係、本件保証契約の性格その他から考えて、右両名の行為は、相手方自身の行為、かりにそうでないとしても、適法に相手方を代理する行為と評価さるべきものである。

二  かりに右の主張が認められないとしても、相手方はその後、昭和四五年六月二四日までの間に、右宮崎らの行為を追認したものである。

三  すると、抗告人主張の保証契約は、抗告人と相手方との間において有効に成立したものというべきであつて、これを否定した原決定は不当であるから、その取り消しを求める。

相手方は主文同旨の決定を求め、左のとおり答弁した。

一  抗告人主張の宮崎貞二および岩佐トシ子が、相手方の実印を本件債務支払保証書に押捺する行為を、相手方のいわば手足となつてしたような事実はなく、また、相手方が右両名の者に、本件保証に関する代理権を授与した事実もないから、右両名の行為が法律上、相手方自身の行為もしくは適法に相手方を代理する行為と評価さるべき筋合はない。

二  相手方が右両名の行為を追認した事実も、また、追認したことを推測させるような事情も全く存在しない。

三  かりに抗告人主張の保証契約が有効に成立したものと認められるとしても、本件のごときいわゆる継続的保証契約については、身元保証法第五条の類推適用もしくは当事者の合理的意思解釈により、相手方に保証責任はないと解すべきである。

四  さらに、抗告人の本件破産の申立は、相手方に対する保証債権の確定手続を採ることもなく、また、主債務者、その他の保証人の責任を追及することもなく、ただ相手方を威嚇して主債務者岩佐物産株式会社に対する自己の債権の満足をはかることのみを目的としてなされたものであつて、申立権の濫用にあたるものである。

当裁判所の判断は、以下のとおりである。

一  当裁判所も、抗告人主張の保証契約が抗告人と相手方との間に有効に成立したと認めるに十分な証拠がないと判断するものであつて、その理由は、左のとおり付加訂正するほかは、原決定理由中の原審の判断と同一であるから、それをここに引用する。

二  原決定五枚目表二行目の「証人」を「原審および当審証人」と、同行目の「同松下繁良」を「原審証人松下繁良」とそれぞれ訂正し、同九行目の「一応」を削除し、同行目および同一二行目の各「疎明」をそれぞれ「証拠」と訂正する。なお、この点につき付言するに、

破産法一三二条二項によれば、債権者が破産の申立をなすときは、その債権の存在および破産の原因たる事実を疎明することを要するものとされているけれども、右の疎明は、みだりに破産の申立がなされることを防止する趣旨から、破産の申立そのものを適法ならしめるための要件とされたものにすぎないのであつて、右法条は、適法要件を具えた破産申立につき、破産原因の存在を認めて破産決定をなすことまで疎明をもつて足るとしたものではない。すなわち、適法な破産申立を認容して破産決定をなすについては、つねに破産原因の存在について十分な証明がなされなければならず、一応の証明である疎明では足りないといわなければならないのである。

三  本件債務支払保証書(甲第一号証)中連帯保証人欄の相手方名下の印影が、当時岩佐物産株式会社の八幡浜出張所員であつた宮崎貞二の手によつて顕出されたものと認められることは原決定理由中の説示のとおりであるが、本件において取り調べた全証拠によるも、右宮崎が相手方の手足としての立場で右印章の押捺行為をなしたとか、あるいは、相手方から本件保証契約締結の代理権を一般的に与えられていたとかの事実を推認せしめるに十分な事情は認められない。抗告人の主張するような具体的事実関係のみによつては、未だ右の事実を認めるには足りないといわざるをえない。

さらに、追認の主張についても同様であつて、その証明が十分でないといわなければならない。

四  以上のとおりであるとすると、結局、抗告人の本件申立は破産原因の証明がないことになり、これを棄却した原決定は相当であつて本件抗告は理由がないというべきである。よつて本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 橘盛行 今中道信 藤原弘道)

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